墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

癒えない傷を胸にそれでも善いことをする/『オール・アバウト・マイ・マザー』

『グロリア』とか『灼熱の炎』みたいなフィジカルな感じではないけど、マヌエラの母としての強さ、勇敢さが強く感じられた。

 

主人公マヌエラ(アルモドバル映画に頻繁に登場する安定のセシリア・ロス)は最近とみに可視化されてきた「夫がトランスしてハア?と思いながらも取り残されちゃった妻」なんだけどそれはかなり中盤になってから明かされる。ちょっと待てよ、ペドロよ。世の中の妻も一生懸命こういうふうに我慢してると思うよ。でも都合良くないかい。

 

でもアグラードはいいキャラなんだよなあー。あっけらかんとして人情あるビッチだからかしら。(笑)アルモドバルの描く””マリコン””って、全然きれいな女になりきれず、ごっついガタイに厚化粧でおっぱいは作りすぎ、売女みたいな服着てるか本当に売女かのどちらかで、なんか最近あなたたちが一生懸命受容しようとしている(※※)「🌈トランスジェンダー🌈」では確実にない。『バッド・エデュケーション』のイグナシオしかり。おっぱいは無いけど『アイム・ソー・エキサイテッド!』のオカマフライトアテンダント3人衆しかり。(ところでオカマフライトアテンダント3人衆ってすごい響きですね。)

 

で最後にいきなり登場したロラにはめちゃくちゃ「オイ!お前のせいでロサが!!さっさと切っとけや!!!」と思った。マヌエラもなんで優しげに子供見せたりする?!?!

 

 

(※)スペイン語で「オカマ」の意。アルモドバル映画では「もう、あんたって本当しょうがないオカマね!」みたいな感じで連発

(※※)「私たち」とは言いません。

絵画よりもなお絵画的な90分の旅/『エルミタージュ幻想』

鬼の90分ワンカット一発勝負!

なんやそれ!??!長回し大好きタル・ベーラもびっくりよ。

そういう技巧的なことばかりだけがこの作品の良さではないのですが……まずはとにかく撮影技術がすごすぎて降参。そしてそのワンカットの中にさまざまに現れる全ての画面に、壮麗なエルミタージュの歴史が満ち満ちている……。

 

視点人物の”監督”は成り行きで出会ったフランス人の外交官とともにエルミタージュにあふれる寓意を通り過ぎ、あるときは読み解いていく…。

 

そしてラストの舞踏会シーンではもう感涙。ヴィスコンティ『山猫』の1時間使った舞踏会シーン大好き人間としてはこの舞踏会もとっても素敵です。映画全体の尺に対して舞踏会に力入れすぎてる映画が好きなのかもしれん。

 

もうエルミタージュ行った気分。もはや行くよりも良いエルミタージュ体験。

俺に任せとけと言って欲しいんだ/『合衆国最後の日』

ベトナム戦争への責任をテーマにしているわりにややセットなどがチープだがバートランカスターがいい役(良心あるテロリスト)で出ているので8割がたOK。バート壮年期の作品。

 

核弾頭ミサイルをジャックした元陸軍将校(もちろんバートランカスター)が、ベトナム戦争で何千何万のアメリカ軍兵士が死にゆくこと、そしてそれは全く無意味であることを明言した議事録の公開を要求。テロリストの要求に正当性を認め、なぜ俺が命をかけて前政権の尻拭いを、とキレる大統領。そして最期はテロリスト2名とともに大統領も散る……。彼を殺したのはテロリストか?それともホワイトハウスに巣食う老獪なジジイたちか?

破れかぶれの愛が彼女の背中を押す?/『ジョーンについて』

イザベル・ユペール、良いよねえ、演技上手いよねえ……。『ELLE』、『エヴァ』、『未来よこんにちは』、『ヴィオレッタ』、『母の残像』、『ブロンテ姉妹』、『アスファルト』、『ピアニスト』、本作と彼女の出演作を観たけど(結構観てる………)『アスファルト』以外は傑作・佳作が多くて、仕事選びが上手い&イザベルの力量がすごいなー。『ピアニスト』はハネケ監督の良さもあるけど中年のイザベルの気品と老嬢としての凶々しさが本当に良いです。

 

本作は一人息子を女手一つで育ててきたジョーン(イザベル・ユペール)がこれまでの人生を振り返り、ついにはひとつの決別を果たし、彼女に捧げられた愛を受け入れる物語。出生から巣立ち後までの息子とのかかわりが物語の終盤まで大きなスペースを占めていて、彼が幻想(幽霊?)だったことが明かされた時はびっくりした…。

 

ジョーンなりに納得して感謝を持って息子と決別するけれど、そこにはちょいちょい挿入されていたマジどうしようもないドイツ人が捧げた破れかぶれの愛があったおかげ……?かも?ドイツ人を演じてる人は『バビロン・ベルリン』であのアザのある情けない坊ちゃんやってる人です(ラース・アイディンガー)。最後は一歩踏み出したジョーンがドイツ人の愛を受け入れる。ここで着てる青いワンピースきれいねー。

認めること、感謝して手放すこと、そしてその先にある受容を描いた映画だった。

元祖?おっさん妊娠映画/『モン・パリ』

男が妊娠するという設定だとアーノルド・シュワルツネッガー主演『ジュニア』が有名だが、シュワよりも先にマルチェロが妊娠してました。

 

あのジャック・ドゥミ監督でマルチェロとカトリーヌドヌーヴを起用してるのに至る所でアホ設定が飛び出しマルチェロも大忙し。(笑)

この世界では食品添加物に含まれるホルモンのせいで男も妊娠するようになったらしい。

剥がれていく好青年/『愛の落日』

グレアム・グリーン、「情事の終わり」といい、男女の複雑なストーリーを作らせたら天才だな…………。フォング(Do Thi Hai Yen)のひかえめかつ玉のような美しさ、めちゃくちゃ説得力ある…………。そりゃこの子にはこんなとこで愛人稼業させてちゃダメでしょうよ。

 

最初はマイケルケイン演じる英国人ジャーナリストのファウラーが愛人を苦しめるしょうもない奴で、いかにも好青年の「おとなしいアメリカ人」パイルが真面目でいい奴としか思えない(ファウラーすら、爆発事件までは信じ切っている)けれど、だんだんパイルの好青年の仮面が剥がれていく。

 

 

仕事部屋の虚像たち/『レア・セドゥのいつわり』

なぜかフランス人のレア・セドゥが育ちの良く真面目で奔放で倦んだイギリス人女性を演じた本作。悪かないけども……?あんまり何も起こらなかった。

 

ユダヤアメリカ人の中年作家と不倫を重ねるものの、『ダメージ』のような激しい感情的な感じではなく淡々とした会話が中心。話す内容はアイデンティティや家庭生活に突っ込み続けるものの、彼らの人物像のコアな部分はよくわからない……。(これもいつわり?)

そして老作家は彼女との逢引きを架空のものとして出版する。これがいつわり。

 

真面目なかっちりした80年代のロイヤルファミリーみたいなシルエットの深緑のタータンチェックの服脱いだらいきなりノーブラなの、かなりイギリス人の皮をかぶったレア・セドゥって感じでした。