墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

白黒の熱帯の冷たさ/「立ち去った女」

ラヴ・ディアス「立ち去った女」を観た。どんなストーリーであってもエッジの立った白黒映画の怜悧な美しさをわたしは愛している。


あらすじ

中年の女ホラシアは30年間無実の罪で投獄されていたが、ある日刑務所内の親友ペトラが「金のためにホラシアの元恋人、ロドリゴからの依頼を請け負い、殺人を犯してその罪をホラシアに着せた」という供述を残して自殺する。出所したホラシアはロドリゴへの復讐を決意し、ロドリゴの住む島をうろつく。その中で出会った貧しいバロット売りや物乞いの女マメン、癲癇持ちの女装の売春夫ホランダらから情報を得ながら、彼らの窮状に手を差し伸べる。ホラシアのロドリゴへの復讐心を知ったホランダは、恩返しのためにロドリゴを殺してしまう。

復讐を自らの手で遂げられなかったホラシアは、行方不明の息子を探しにマニラへ向かうが進展はなく、ただぐるぐると同じ場所を回り続けるのだった。


フィリピンの蒸し暑さを感じさせない白黒の冷たさがある。


ロドリゴの告解のシーンが印象的だった。他人を陥れてきたことを、後悔していないし、してもいる。罪を罪とも思わず、具体的なことは何も言わない。ロドリゴという敵を遠くから取り巻く人々を通して、ある時は狙い通りに、ある時は偶然的にホラシアはロドリゴににじり寄って行く。ロドリゴとホラシアは結局会うシーンもないし、ホランダによるロドリゴ殺しはある意味で恩返しであり、またある意味でホラシアにとっては復讐の簒奪だったのだと思う。