墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

サミュエル・L・ジャクソンだったのか、その重々しい語りは/『私はあなたのニグロではない』

ボールドウィンの未完成原稿を基にした『私はあなたのニグロではない』を観た。


ついこの間までトランプが大統領だっただからなおさら際立つけど、アメリカはもともと根底にものすごくシステマチックな差別構造を持っていて、個々人(特に白人)のうちにも、ステレオタイプな陽気さとかフレンドリーさとは全く違う次元での徹底的に冷徹な精神性を持っているのだなあと感じた。トランプ政権で、アメリカを覆っていた融和のベールが取れて噴出した本質の部分はものすごく冷酷だったというか…


ボールドウィンと親しかった黒人解放運動のリーダーたちは本当に次々と暗殺されてしまう。自分より若い同胞達を次々と殺されて、いかばかりの苦しみだったか…。サミュエル・L・ジャクソンの重々しい語りがボールドウィンの悲痛や苦悩を、激情ではない形で伝えてくる。

白人の大学教授とボールドウィンの対談は、ボールドウィンが言いたいことが大学教授に伝わらないどころか意図的に人種というハードルを低めるような発言に対してこっちももどかしくなってしまったけど、経験に裏打ちされたボールドウィンの言葉で観客としては深く納得した。そしてボールドウィンにここまで語らせるそんな「経験」はこの世の誰もすべきでない。