墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

ユングとフロイトの破局/『危険なメソッド』

キーラナイトレイの迫真の錯乱の演技。演出でうまく「これは恋じゃなくて転移なんですよ」感が出てると思います。フロイトがなんでもリビドーに結びつけちゃうのは有名で今となっては眉唾扱いされてるものと思ってたけど、これ見たらそれはユングもじゃないのか?と思ってしまう。

前半はサビーナとの不倫・禁断かつSMフェティシズム要素のあるセックスを押し出そうとしてるようですけど、これはフロイトユング破局の物語だと思います。

フロイトユングを自分の理論を継ぐ後継者(「皇太子」とまで言ってたような)になれる器と期待していたけど、ユングユングフロイトに一時は心酔しつつもどこか見下していた。しかしユングフロイトと決別したらあれよあれよと抜け殻になっちゃって、なんかこう師弟関係を超えた何かを失って魂を吸い取られちゃったユング、腑抜け感が強くて可哀想な気持ちにすらならなかったです。

キャラクターがみんな人間的に微妙ななか、白眉はユングの奥さんでは。奥さんめちゃくちゃ美人だし自分の財産の威光の出しどころを完全にわかってるしユングとサビーナのセックスに薄々気づいてようと黙って泳がせてるんだけど根底には「お前は離さん!!」っていう確固たる意思が感じられるし、あの「天井桟敷の人々」で異彩を放っていた「メンタルがめちゃくちゃ強いメンヘラ」であるところのナタリーと親和性のあるキャラクターじゃないでしょうか。でも奥さん根の部分がお嬢だからメンヘラっぽくはないな…。

エンドロールでは各登場人物が悲惨な最期を辿ったことが明らかにされるので観後感は良くはないですし、劇中のことを全部史実と捉えるのもちょっと微妙だし、キャストの演技や画は良いけど全体的にあんまり面白いわけではなかったです…。