墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

恋する人たちには、ドナウは青く見えるのさ/『チップス先生さようなら』

久しぶりにしょうもなくない学園ものを観たわ…。なんと、主演のロバート・ドーナットは当時35歳!見事におじいちゃん先生を演じている。青年期の俳優は別の人で、ヒゲ生やしだしてからは年相応の俳優が演じてるものと思ってたけど、実は老け演技がめちゃくちゃ上手い30代だったのか…。そら風と共に去りぬのクラークゲーブルを押さえてオスカー獲りますわ。あの男っぷりのクラークにだよ!?


新米教師ミスター・チッピングは名門パブリックスクールラテン語教師として着任する。真面目なチッピングは低学年の予備クラスのいたずらっ子たちの洗礼を受け、校長に諭されてしまう。苦労しながらも教師として経験を積み、中堅教師になるが、生徒からは生真面目な先生として敬遠され、打ち解けることができないでいた。


ある休暇、ドイツ語教師のストゥフェルに誘われてチッピングはアルプスからウィーンにかけての徒歩旅行に出かける。アルプスを散策している途中に濃霧が発生してしまい立ち往生していると、上の方から同じように困っているとおぼしき女性の声が聞こえてきた。チッピングが女性を助けようと声を頼りに登っていくと、そこにいたのは快活な英国人女性キャサリンだった。無事に下山したもののキャサリンとのどきどきするような時間を忘れられずキャサリンのことが心に残っていたチッピングだったが、ドナウ川を渡る客船で偶然キャサリンに再会する。キャサリンも紳士的なチッピングに好感を抱き、ウィーン観光を共に楽しむ。先に休暇を終えて帰国するキャサリンを駅へ見送りに行き、出発間際に互いに想いを寄せていたことがわかる。せっかく思いが通じたのにもう会えないと思って必死に列車を追いかけたチッピングだったが、ストゥフェルが気を利かせて「英国に帰れば教会の手配もしてある。結婚したまえ」と後押しする。二人は結婚し、ともにパブリックスクールへ戻った。


同僚の教師たちは「冴えないチッピングの相手はどうせ中年女だろう」予想し、生徒たちも興味津々だったが、妻が快活な若い女性でチッピングを「チップス」と呼ぶなど二人の良い関係を知り驚く。キャサリンの影響でチッピングも授業で冗談を言うなど親しみやすい態度になり、加えてキャサリンが生徒を家に招いてチッピングともにお茶会をしたお陰でチッピングは「チップス先生」として生徒から信頼されるようになっていく。ある年のエイプリルフール、生徒たちが教師にこぞっていたずらを仕掛けるため学校は浮き足立っていたが、その日キャサリンが難産で命を落とし、子供も死産となってしまった。チッピングは悲しみを抱きながらも授業へ行き、生徒たちを教えた。

月日が経ち、高齢となったチッピングは惜しまれながらも教師を引退することになった。そんな中、第一次世界大戦が始まった。生徒や教師たちが出征していく中、チッピングは戦争中に臨時で校長を務めてくれないかとの申し出を受ける。長年の夢だった校長の職に就くことができたチッピングだったが、愛する教え子たちの戦死の報を次々と受けることになる。卒業生で学校理事となっていたコリーや、キャサリンとの仲を取り持ってくれたストゥフェルも亡くなってしまったのだった。ストゥフェルは敵側のドイツ人だったが、学校に勤めたよき教師としてチッピングは皆に報せることにした。

第一次世界大戦が終わり、チッピングの校長としての務めも終わることとなった。ある日、先輩のいたずらで新入生がチッピング家の戸をたたく。「先生に呼ばれたと聞きました」と言ってやってきたのは、戦死したコリーの息子だった。チッピングは暖かく迎え、ケーキを出してやる。お茶をご馳走になったコリーは「さようなら、チップス先生」と言ってチッピング邸を後にする。コリーが帰った後、うとうとしたチッピングは走馬灯のように思い出が蘇ってくるのを感じる。体調を崩し危篤に陥ったチッピングの死の床で、現役の教師たちがチッピングの境遇を噂する。「ずっと一人だったんだろう」「一度結婚していたらしいが」「せめて子供でもいれば…」目を覚ましたチッピングはこう言う。「私に子供がいないだって?私には何百、何千人の子供がいる。教え子はみんな私の息子だ。」今にもこの世を去らんとするチッピングの脳裡には可愛らしいコリー少年の姿が浮かぶ。「さようなら、チップス先生。さようなら」


なにしろチップス先生の実直で紳士的な人柄がとにかく可愛らしい。キャサリンにも全然アプローチできないんだけど、キャサリンにキスしてもらったのにもう会えないと思って必死で列車を追いかける姿となんと初々しいことよ。老年期に入ってからはちっちゃいおじいちゃん然としていて、ドーナット氏は本当にすごい演技力ですね。

なおストゥフェルとチッピングは客船でドナウ川を眺めながら「美しく青きドナウじゃなかったのか?」「恋する人にはドナウは青く見えるらしい」という会話を交わす。まあテムズよりはきれいだと思うからイギリス人には青く見えるんじゃないでしょうか。