墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

癒えない傷を胸にそれでも善いことをする/『オール・アバウト・マイ・マザー』

『グロリア』とか『灼熱の炎』みたいなフィジカルな感じではないけど、マヌエラの母としての強さ、勇敢さが強く感じられた。 主人公マヌエラ(アルモドバル映画に頻繁に登場する安定のセシリア・ロス)は最近とみに可視化されてきた「夫がトランスしてハア?と…

絵画よりもなお絵画的な90分の旅/『エルミタージュ幻想』

鬼の90分ワンカット一発勝負! なんやそれ!??!長回し大好きタル・ベーラもびっくりよ。 そういう技巧的なことばかりだけがこの作品の良さではないのですが……まずはとにかく撮影技術がすごすぎて降参。そしてそのワンカットの中にさまざまに現れる全ての…

俺に任せとけと言って欲しいんだ/『合衆国最後の日』

ベトナム戦争への責任をテーマにしているわりにややセットなどがチープだがバートランカスターがいい役(良心あるテロリスト)で出ているので8割がたOK。バート壮年期の作品。 核弾頭ミサイルをジャックした元陸軍将校(もちろんバートランカスター)が、ベトナ…

破れかぶれの愛が彼女の背中を押す?/『ジョーンについて』

イザベル・ユペール、良いよねえ、演技上手いよねえ……。『ELLE』、『エヴァ』、『未来よこんにちは』、『ヴィオレッタ』、『母の残像』、『ブロンテ姉妹』、『アスファルト』、『ピアニスト』、本作と彼女の出演作を観たけど(結構観てる………)『アスファルト』…

元祖?おっさん妊娠映画/『モン・パリ』

男が妊娠するという設定だとアーノルド・シュワルツネッガー主演『ジュニア』が有名だが、シュワよりも先にマルチェロが妊娠してました。 あのジャック・ドゥミ監督でマルチェロとカトリーヌドヌーヴを起用してるのに至る所でアホ設定が飛び出しマルチェロも…

剥がれていく好青年/『愛の落日』

グレアム・グリーン、「情事の終わり」といい、男女の複雑なストーリーを作らせたら天才だな…………。フォング(Do Thi Hai Yen)のひかえめかつ玉のような美しさ、めちゃくちゃ説得力ある…………。そりゃこの子にはこんなとこで愛人稼業させてちゃダメでしょうよ。 …

仕事部屋の虚像たち/『レア・セドゥのいつわり』

なぜかフランス人のレア・セドゥが育ちの良く真面目で奔放で倦んだイギリス人女性を演じた本作。悪かないけども……?あんまり何も起こらなかった。 ユダヤ系アメリカ人の中年作家と不倫を重ねるものの、『ダメージ』のような激しい感情的な感じではなく淡々と…

人を鬼火で判断してはいけない/『ダメージ』

ルイマル映画作るのうますぎでは? 名作といわれる『鬼火』だけ観て「うーんよくわからないなあ…」と思っていたけど、人を鬼火で判断してはいけないのね。『ダメージ』はかなり好きです。 まずキャスティングの妙ですよね…。 言わずもがな美しく枯れているジ…

そして何も起こらなかった/アントニオーニ『欲望』

すんません。修行が足りないので全然面白く観られませんでした。これパルムドールなんか!?!???カンヌ審査員と全然意見が合いませんわ… 「メイ見たもん!死体いるもん!」「そこに無かったらないですね」を謎めいた感じでやったらこうなりました。とい…

旦那の方が病気/『こわれゆく女』

夫を愛しすぎたが故に精神崩壊していく妻…というU-NEXTの説明を信じてたけど、これニック(夫)が異常にキレやすくて声がでかいのが原因なだけで、ニックがメイベルのこといちいち恫喝しなければメイベルは精神崩壊しないと思う。ていうかどこが「繊細な演技」…

わたしたちはまだ結婚していない/『ビール・ストリートの恋人たち』

ムーンライト、ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコとこれ!!!A24最強。ラストブラックマン・イン・サンフランシスコものくごく好き。 とにかくティッシュの家族が果てしなく優しくて思いやりがあって絆が強くて、それだけで物語にものすごく深…

整いすぎた庭とバロックの映像美/「去年マリエンバードで」

冒頭から「出た!!!このわけのわからんアラン・ロブ・グリエの台詞回し!!」と思いましたが、本人が監督してないからいい感じに意味不明さが薄まったのとアランレネの実力でめちゃくちゃ好きな映像に仕上がってました……。こういう装飾過多な建物とか鏡と…

穏やか系アルモドバルに見えて/『ペイン・アンド・グローリー』

まず私は言いたい。邦題は「痛みと栄光」で良い。日本の配給会社、欧米=英語圏だと思ってるの何なの??なんで欧をすっ飛ばすの?ブランカニエベスがブランカニーヴスにされそうになったこともあったけどさあ……元の映画が生まれてきた文化圏と、日本人の観…

もはや時代劇かもね/『グリース』

カタカナで認識してたから、アメリカの話なのはわかってたけどどっかでギリシャが絡んでくるものと思ってたよね。全然違ったわ。スペルが違ったわ。1ミリもギリシャなかったわ。トラボルタは「老けた高校生だなあ」と思ってたけど、オリヴィア・ニュートン=…

実は保険調査員ドラマでした/『殺人者』

ずっと観たかったバートランカスターデビュー作『殺人者』を鑑賞。若かりしバートの荒くれ者の脂っぽさと美青年感が両方出ていてバートウォッチャー的にはかなり良いです。そしてヒロインのエヴァ・ガードナーが輝かんばかりのファム・ファタールで、まあよ…

娯楽に全振り!女装が雑すぎる/『真紅の盗賊』

バートランカスターのプロモーションビデオか?っていうスターありき映画です。バートのアクション以外にはあんまり期待してませんでしたが、ちゃんと海でロケしてるっぽいし、脇役のニック・クラヴァットも演技がうまくていいキャラ出してるし、一瞬ですが…

タイトルしか勝たん/『サタデーナイトフィーバー』

ええ〜…?もっと全編踊りまくってマツケンサンバ並みのフィーバー!ジャーン!終わり!みたいなイメージだったのに、親友は死ぬわ、自分に想いを寄せる女の子がヤケになって輪姦されるのを見て軽蔑するわ、テーマは「10代の葛藤」みたいな感じだったの……?と…

マルチェロ・マストロヤンニはジェフ・ゴールドブラムと同じ匂いがする/『昨日、今日、明日』

たしかにかっこいいしセクシーなんだけどなんかそこはかとなく常にアホをひとつまみふりかけられているマルチェロ・マストロヤンニ。第三エピソード終盤で、ソフィアの爆裂セクシーストリップをぶりっ子ポーズでガン見しているシーンはさすがにバカでした。…

ロブって普通に良い奴じゃん/『TENET』

出た物理学時間軸こねくり回しノーラン節。最初本当に理解できませんでしたがなんか面白かったです。ベトナムで自殺を止めるやつは、逆行してない方の自殺を止めるんだと思ったんだけど逆行した方の自殺を逆行したキャットが止めるっていうことね。理解。ロ…

そのブロマンスはちょっと脂多すぎてキツい/『ワンスアポンアタイムインハリウッド』

タランティーノ『ワンスアポンアタイムインハリウッド』を観た。まず「史実ねじ曲げちゃった!?」が一番の感想です。あとブルース・リーをあからさまにコケにするのはちょっとPC的に違和感……と思いました。ネットで評も少し読みましたがいきなり「ミソジニ…

それがアイリッシュのハードボイルドなのか?/『ジャック・テイラー』

イアン・グレン主演ドラマ『ジャック・テイラー』を観た。アイルランドのゴールウェイという地方都市で私立探偵をやっているジャック・テイラーが主人公のクライムサスペンスなのだが、ハードボイルドと言われている割になんだか主人公はしっかりしていなく…

バズ節炸裂!アメリカン・ドリームとギラついたレオ様/『華麗なるギャッツビー』

バズ・ラーマン監督レオ様主演の『華麗なるギャッツビー』を観た。狂騒の20年代に、ある意味バズの騒々しい画面作りは合ってるのかもしれない……?かと言ってそこまでバズらしさを好きにはなれないのですが。(笑)キャスティングとかは良いし嫌いでもないけど…

どぎつくなくエロくない、女が抱いても良いよいこのセクシー:良くも悪くもベビーピンクのオシャンティーになるしかないのか/『ランジェリーインシネマ』

山崎まどか『ランジェリーインシネマ』を読んだ。もとはピーチジョンのサイトに連載していたコラムをまとめたものらしい。テーマがオシャレかつ興味深いし変なPRくささもなくて良い。中身は今までチェックしてなかった「バターフィールド8」とか紹介されてて…

詩的宇宙・宇宙的詩世界『銀河の片隅で科学夜話』

この世の仕組みって不思議だよね。詩的かつ壮大だけど軽妙なエピソードで綴る22夜一夜物語。表紙も挿絵もめっちゃ良い。好きなのは「世界の中心にすまう闇」と「エヴェレット博士の無限分岐宇宙」、「ペルシャとトルコと奴隷貴族」あたりです。最初は冷遇さ…

佳苗を「ケア」で読み解く/『毒婦たち。東電OLと木嶋佳苗のあいだ』

今、世の中的にも信田さよ子が来てるんですけど、あんまり意識せず読んでみたら面白かった。対談の中では片鱗しか触れられてないけど、佳苗の手記とか供述とかのしっかりとしていながら当たり前のように対価としてバンバン人間を殺していく(花畑風味あり)感…

何もはっきりとは言わないままでいて/『ラスト・ストーリーズ』

アイルランドの作家ウィリアム・トレヴァーの短編10篇を集めた作品集。どれもはっきりと「答え合わせ」をしないけれど、かと言って物語構造がぼんやりしているわけでもない、ジャンクさとは程遠い繊細な物語だった。中でも「冬の牧歌」が好きになった。ラス…

モノと物語/『アンティークは語る』

マーク・アラム『アンティークは語る』を読んだ。著者はBBC「アンティーク・ロードショー」でプレゼンターを務めていた人らしい。(本書を読む限り、イギリスの「なんでも鑑定団」みたいな番組と思われる。観てみたい。)有名なコレクションアイテムの紹介から…

空っぽな手の奇蹟だ/『田舎司祭の日記』

バルタザールのノリにいまいちハマりきれなかったのですが、こっちは好きだった。特にサントラ。予告の時点ではてっきり司祭とシャンタルが禁断の恋に落ちて「聖職なのに村の娘に手を出しやがって」的なスキャンダルになって司祭の地位から追い落とされるみ…

主人公のエイドリアンブロディ感/『バビロン・ベルリン』

『バビロン・ベルリン』が配信で観られるようになったのでまたS1から観ています。安定の面白さと衣装・美術の良さ…………。ジャーマン・ジャズ・エイジここに再現さる。しょうもないですけど前から主人公がエイドリアンブロディに思えてしょうがないです。あと…

ウル・コーマはグルジア語/『The city&the city』(ドラマ)

かつてアイリーン・アドラーだったララ・パラヴァー様に期待してたんですが、SFドラマだったらどちらかというと「フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームス」の「真生活」の方が輝いてました。「べジェルとウル・コーマは隣接する都市国家だが互…