墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

人を鬼火で判断してはいけない/『ダメージ』

ルイマル映画作るのうますぎでは?

名作といわれる『鬼火』だけ観て「うーんよくわからないなあ…」と思っていたけど、人を鬼火で判断してはいけないのね。『ダメージ』はかなり好きです。

 

まずキャスティングの妙ですよね…。

言わずもがな美しく枯れているジェレミーアイアンズ、短髪でクリーンでイノセントでどこか中性的なのにジェレミーアイアンズをズブズブにハマらせる魔性のジュリエットビノシュ、政治家の美人妻を体現するミランダリチャードソン、俺たちのレストレード・ルパートグレイヴス。

 

ティーヴンとアンナのラブシーンは美しく官能的ですが、アンナを「知ってしまった」あとに部屋に入ってきていきなりネクタイ緩めて余裕のない表情しているジェレミーが単体でものすごくセクシー。絡んでない方がエッチじゃん。(笑)教会のドアのところでセックスしちゃうのも余裕なさすぎて好きです。あと自分で勝手にアンナのことを追いかけていったのに、マーティンとラブラブしてるのを見てショックでベッドで丸まってるのも素直で面白すぎる。

 

翻ってアンナのキャラクターは色々要素を文字に起こすと相当精神に問題があるビッチですが、ジュリエットビノシュのミステリアスさの勝利ですね。じっと見つめられたらもう好きになってしまう。目がめちゃくちゃ語りかけている……。

そして何も起こらなかった/アントニオーニ『欲望』

すんません。修行が足りないので全然面白く観られませんでした。これパルムドールなんか!?!???カンヌ審査員と全然意見が合いませんわ…

 

「メイ見たもん!死体いるもん!」「そこに無かったらないですね」を謎めいた感じでやったらこうなりました。という感じでしょうか……。最終的に残るものがなかったら何もなかったことになるのか。ということを問うているんだと思いますが、本当におもしろさが分かりませんでした。

旦那の方が病気/『こわれゆく女』

夫を愛しすぎたが故に精神崩壊していく妻…というU-NEXTの説明を信じてたけど、これニック(夫)が異常にキレやすくて声がでかいのが原因なだけで、ニックがメイベルのこといちいち恫喝しなければメイベルは精神崩壊しないと思う。ていうかどこが「繊細な演技」なんだよ。一番の見せ場はメイベルの「瀕死の白鳥」と指で十字架つくってドクター吸血鬼を退治しようとするシーンじゃん!U-NEXTの作品説明って、結構ストーリーの佳境部分まで言ってしまってるわりに「そこに注目する!?」っていうところがあたかも重要ポイントみたいに書かれたりしてて総じてイマイチだよね…。

 

そして最後は急にノリの良い音楽が流れて何事もなかったように元サヤの日常に戻る2人が本当に病気。別れた方がいいよ。

わたしたちはまだ結婚していない/『ビール・ストリートの恋人たち』

ムーンライト、ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコとこれ!!!A24最強。ラストブラックマン・イン・サンフランシスコものくごく好き。

とにかくティッシュの家族が果てしなく優しくて思いやりがあって絆が強くて、それだけで物語にものすごく深みが出てる。ここで家族の反対にあって1人で息子育てるんだったらただのお涙頂戴ストーリーだもん。

 

ティッシュの家族と対比されるファニーのママは超保守で、ある意味迫力があってスゲー女ではある。思いっきり「curse you,bitch!」というテンションだけどとにかく息子のことは「私の息子だけは主が許してくださる!!」と思ってるとこが…。たぶんこの世界で比較的当時の「一般的な感覚」なのはファニーのママなんだよな。

ティッシュのママがプエルトリコまで説得しに行くけど「しくじった!」と天を仰ぐところとか、本当にやるせない。でもそのやるせなさは物語的をドラマチックにするための作られたすれ違いじゃなくて、本当にベストを尽くした結果だから誰もどうにもできない。

最後にアロンゾ・ジュニアがお祈りしてみんなで食べるマクドも良い。

整いすぎた庭とバロックの映像美/「去年マリエンバードで」

冒頭から「出た!!!このわけのわからんアラン・ロブ・グリエの台詞回し!!」と思いましたが、本人が監督してないからいい感じに意味不明さが薄まったのとアランレネの実力でめちゃくちゃ好きな映像に仕上がってました……。こういう装飾過多な建物とか鏡とか特に意味もなく着飾って佇んでいる人々、いつまでも見ていられる。多分レストア版だと思いますが、こんなにストーリーのわからん映画よくレストアするお金出たね!!ありがとう!!

 

とにかくセリフやモチーフが反復されるので自制がわからなくなるし、連続したシーンなのに服変わってるし(これは結構良かったけど)、何が起こって何が起こってないのか全くわからないし登場人物が生きてるのか死んでるのかすらわからないんですが、豪奢なホテルのサロンやバーやあの廊下が見えてるだけでもう満足かなーという気持ちになってきました。

重要モチーフの整いすぎた庭、最後のホテルのロングショットも不穏で良かったです。

穏やか系アルモドバルに見えて/『ペイン・アンド・グローリー』

まず私は言いたい。邦題は「痛みと栄光」で良い。日本の配給会社、欧米=英語圏だと思ってるの何なの??なんで欧をすっ飛ばすの?ブランカニエベスブランカニーヴスにされそうになったこともあったけどさあ……元の映画が生まれてきた文化圏と、日本人の観客の知性を舐めてるとしか受け取れませんし……あと普通にアルモドバルの前作Julieta をジュリエッタにしたのも許さんから。劇中ずっとフリエッタフリエッタ言ってるでしょうよ。


セクシリアとかマタドール、「私が、生きる肌」などのヤバ作品と比べてだんだん作風が穏やかになっているアルモドバル、いよいよJulietaと本作で穏やかになったと思われます。しかし、私は前から「アルモドバル、恋愛的な意味でバンデラスのことが好き説」を提唱してますが、そのバンデラスに自己投影したキャラクターを演じさせちゃったということはかなり変態的なことだと思っています。あとあの昔の恋人との熱烈ベソも。やっぱりアルモドバル変態なんですけど個人的にはボルベール、私が、生きる肌ぐらいの感じで映画のストーリーでもガッツリ変態性を出してきたやつをもう一度撮ってほしい。よろしくお願いします。

もはや時代劇かもね/『グリース』

カタカナで認識してたから、アメリカの話なのはわかってたけどどっかでギリシャが絡んでくるものと思ってたよね。全然違ったわ。スペルが違ったわ。1ミリもギリシャなかったわ。


トラボルタは「老けた高校生だなあ」と思ってたけど、オリヴィア・ニュートン=ジョンの方がめちゃくちゃ年上で当時29歳だったのにはびっくりした…………。29には見えないあの芋くてウブな感じ!


なんか、アメリカの陽キャの陽の部分を集めた感じでちょっとテンションについていけませんわ…というところも多かったです。あと普通に映画として変なところあるよね?「美容学校の落第生」とか、美容学校の落第生とか、美容学校の落第生とか。あの人一応当時の大スターらしい。グリース観て彼のことを初めて知る人、「変な歌の人だな」としか思わないよ。かわいそうに…。


人海戦術なのはいいけど色味がごちゃついてて散らかり感。逆に思ったけど、「山猫」の舞踏会シーンとか、あんだけひらひらの服着た人が大量にいるのに画面に重厚感と統一感あるの本当にヤバいな。