墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

あの子は嫌いよ。あなたを苦しめるから/『イノセント』

ヴィスコンティの遺作『イノセント』を観た。コスチュームプレイここに極まれりすぎて若干胸焼けしました。もう四捨五入したらアラサーだから霜降りの脂乗ってる肉とか沢山食べられないの……。『山猫』は長いけどシチリアの青い空も出てくるしもうちょっとカラッとしてなかった?バートはアメリカ人だしさ。


主人公トゥリオは社交界の華、伯爵夫人テレーザと不倫関係にあり、妻ジュリアーナに「君のことは妹のように思っている。今はテレーザに恋している」と公言しテレーザとフィレンツェへ旅立つ。ショックで睡眠薬を過剰摂取し倒れたジュリアーナを、たまたま訪ねてきていたトゥリオの弟とその友人で作家のダルボリオが介抱することになった。

フィレンツェ滞在中、テレーザを巡って他の男と揉め事を起こしている間にテレーザに置いて行かれ、トゥリオとテレーザの蜜月も危うくなる。トゥリオの母の家に身を寄せていたジュリアーナを訪ねると、ジュリアーナはダルボリオに心惹かれている様子だった。嫉妬したトゥリオは「妻として妹として愛してきたが、愛人としては愛してこなかった」と言って淫らなセックスを仕掛ける。ジュリアーナと再び心が通ったかと思ったのも束の間、母親からジュリアーナが妊娠しているかもしれないと聞かされたフリオは、時期からして自分の子ではないことを確信する。ジュリアーナもダルボリオとの子だということを自覚しており『罪を犯してしまった』と焦燥を見せる。トゥリオはジュリアーナに堕胎させようとするが、ジュリアーナは宗教的に堕胎の罪を重く考えており、離婚してでも堕胎しないと言って断る。

トゥリオは弟に、ダルボリオと偶然を装って会うことができないかと頼むが、ダルボリオがアフリカで感染症に罹って入院していることを知らされる。そうこうしているうちにジュリアーナの出産の時がやって来た。トゥリオは死産を期待していたが、母子ともに無事にお産を終えることとなってしまった。トゥリオの母親は孫の誕生を大層喜ぶが、トゥリオが赤ん坊の顔を見ようともしないこと、またジュリアーナも赤ん坊を遠ざけてトゥリオと二人で閉じこもっていることを訝しむ。ある日、ダルボリオの訃報が新聞に載る。トゥリオはわざとダルボリオの危篤を隠していたが「ダルボリオは感染症で入院していたんだ。君に言っていなかったか?」とジュリアーナに言う。

愛が再燃し、赤ん坊を疎ましく思うトゥリオとジュリアーナは、クリスマスが過ぎたら二人だけで発とうと約束する。トゥリオは、家族も召使いもクリスマス礼拝に出かけている間に、眠っている赤ん坊を極寒のバルコニーに放置する。家人が帰宅する直前にゆりかごに戻したものの、赤ん坊は衰弱し、死んでしまった。ジュリアーナはショックで失神しかけ、トゥリオが赤ん坊に何かしたのではないかと疑い責め立てる。トゥリオが「君も赤ん坊を邪魔に思っていただろう」と言うと「赤ん坊を守るためにわざと冷たくしていたの。あなたを軽蔑し、あの子の父親を愛し続ける」と言ってトゥリオを拒絶する。赤ん坊を邪険にし、トゥリオと再び心を通じ合わせたかのような態度は全て赤ん坊を守るための演技だったのだ。

トゥリオはテレーザと家に向かう道中、ことの顛末を語る。テレーザは「子供が死んだのはあなたのせいではない」と言うが、トゥリオのことをもはや愛していないと語る。居間でうとうとしていたテレーザにトゥリオは「終わりを見ていてくれ」と語りかけ、テレーザが銃声で飛び起きると、トゥリオはピストル自殺していた。テレーザは急いでコートをつかみ去っていった。


とにかく知らず知らずのうちに自分がトゥリオになっていて辛い。感情移入してしまうとか同情してしまうとかではない。子供を守るためにわざと「あの子のことは嫌いよ。あなたを苦しめるから」というジュリアーナのことを愚かにも信じてしまっているのだ。ジュリアーナが「愛人にするセックス」で陥ちた(かのように見えた)こととか、子供が産まれてからまたトゥリオのことを慕うようになった(かのように見えた)ことも全て演技だったんだ…………………。信じてしまった自分が愚かとしか言いようがない。また、もちろん自分がジュリアーナとダルボリオの不倫を許せないのが一番の動機ではあったけど、ジュリアーナも不義の子に苦しめられてるからジュリアーナの幸せのためにもなると思って赤ん坊を殺したのに、もはや仮面をかなぐり捨てたジュリアーナに「あの子の父親を愛し続ける」と言われるのも辛い。でも身勝手な男なりにジュリアーナのことは好きだったよ。淫らなセックスもできる妹として。(最悪すぎる)

諸々が終わって経緯をひととおり語った後、テレーザの前では「妻は愚かだ。幽霊と一緒に生きてるんだから」って心底ドライな語り口で喋るのもなんか分かってしまうところがまた自分の内側にある冷淡さや醜さを引っ張り出してきて見せられているようで衣装や調度のコテコテ感とは違った意味で胸焼けしてくる…。


こっちは純朴な少年のメンタリティで生きてると思ってたのに気づいたらこんな同化して観てしまうのが情けないとしか言いようがない。こんな変な男に言い寄られてあまつさえ死ぬところを見せられてテレーザもいい迷惑だな。