墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

抑圧者としての自分がじりじりと炙り出されつつも、物語の奔流に圧倒される読書体験/『パチンコ』

なんという没入感……あっという間に読んでしまいました。


なんというか、もっと日本社会への批判的な目線が入っても当たり前なのだが、ものすごく慎重に日本人や日本社会を責めず悪者にせずただありのままに日本の醜い部分を含めて彼らの生きていた空間を昭和の空気を纏って静かにボーンと置いておりますみたいな感じがした。日本人の紙一枚隔てた薄ぼんやりした悪があまりに正確に写しとられているが故に、もっとわかりやすく批判してくれ…とすら思った。というか構成的にはそれをした方がわかりやすいと思うのだが、そんなことをしなくても全体を貫く物語が骨太だからわかりやすさなんて要らなかった。


なんというかノアの大学の恋人のあの人…………。あの人に凝縮されてるあの感じが自分にもあることを意識させられて、典型的な日本人ってあらゆる他者に対してああいう感じだよなあと思いました。そしてあの感じを完全に描ききるミン・ジン・リー、何者なんだ……………。


以下は箇条書き的に思いついたことを書きます。


コ・ハンスめちゃくちゃ仕事できる男。部下はうまくあしらうししょうもない女は殴る。そしてノアのあれこれの後はシレッと消えていた。


あと、ちょっと「男に性欲があるのは当然」「夫婦が性的関係を持つのは当然」みたいな当時の価値観が留保なしでスーッと出てきてるのは気にはなりました。当時は当たり前なんだからそこ留意した上で読めやって感じかもしれませんが。特に妊娠中のソンジャに当たり前のように手を出すイサクね。まあソンジャも当然と思ってたしなんか優しい風に描写されてはいたけど………。


ソンジャが長野に会いに来てからのノアの気持ちが全く描かれないところが、大事なところを描かずに余韻を残す手法でやはりニクい…………自死しちゃうのは悲しかった。もうおっさんだったけど読者の気持ち的には大学生から全然時が経ってなかったから。


あと、訳者の人関西弁ネイティブじゃない方なんでしょうか?朝ドラの変な関西弁よりはよほど優秀だと思うけどところどころセリフのリズムが途切れてグルーブ感がダウンしてしまいました。ソンジャが関西弁じゃないのも変なんだけど、朝鮮語で喋ってるシーンが多いからなのか?なんかノアとかインテリジェンスなキャラクターはあえて標準語っぽくしてるようで、ちょっと悪い意味で「方言がキャラクター演出に利用されてる」感を感じました。「未開感」とか「洗練されてなさ」を出すときに方言話させるやつね。オリエンタリズムじゃん……。