墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

最後のくちづけを、そして愛した女の血の雨のふる/ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』

ヴィスコンティの映画をだいぶ前に先に観て、今回原作を読みました。ヴィスコンティは勝手に映画化して違うタイトルつけてたから、デビュー作なのに公開禁止とかになってたらしいです。地に足のつかない根無草の男・フランクが、魅力的な人妻コーラに出会っ…

むしろカレーニンをもっと見たい/『アンナ・カレーニナ』

ほとんどのシーンが文字通りの劇場とそこに挿入された邸などの空間で展開する、歌わないミュージカル?舞台演劇?的映画。画作りは面白いし綺麗だけどなんでそこ劇場にした?っていう無理やり感あるシーン(競馬とか)も多かったです。美術チーム大変だっただ…

私たち自身の痛みから気を逸らすための装置としての「どこか遠いどこか」/『ムスリム女性に救援は必要か』

オリエンタリズム・ポストコロニアリズムを齧った者なら知的好奇心をめちゃくちゃ刺激される一冊。自分の中のオリエンタリズムを自覚させられます!!名作『私はヌジューム、10歳で離婚した』を観る目が変わります。著者は、西欧の人々が普遍的な倫理コード…

エヴァ様の魅力炸裂/『ダークシャドウ』

“Curse you”とか言ってるわ、シャンデリア落とすわ、ティム、なにげにオペラ座の怪人的要素を入れようとしたな??とにかくエヴァグリーン様が魔女という完全にそれな設定でアンジェリークの魅力がやばい。エヴァグリーン様があんな媚態で迫ってきたらそら誘…

モモアマンはカールドロゴだからその世界で王になったらいかんタイプ/『アクアマン』

なんかニコールの息子がモモアマンなのも無理あるしパトリックウィルソンがモモアマンの弟なのもかなり無理あるぞ。ニコールは元々地毛がブロンドなのもあるけど、デナーリス的プラチナブロンドウィッグをかぶってビジュアル的にありになれちゃう女なの本当…

こんなねちこいイタリア人少年いたのか!最悪!/『青い体験』

『イノセント』からのラウラアントネッリ繋がりで『青い体験』を観た。とにかく性加害の連続でめちゃくちゃ不快だった…………。昔の男どもこんなので抜いてたの!?あまつさえイタリア人が!?これよりエマニエル夫人でオナニーする方がなんぼか健全だと思う(エ…

オールスターだからこそキャスティングの妙が活きる/『大空港』

ただのバートウォッチングと思って観ていたら結構ハラハラして面白かった。というか公開当時はめちゃくちゃヒットしてたのか……。「あらゆるフライトパニック者の祖」らしいです。バートウォッチングとしてもいいバートがいっぱい見られて良かったです(バート…

「3つ数えろ」よりこっちが「The Big Sleep」じゃん/『イカリエ-XB1』

『2001年宇宙の旅』や『スタートレック』など錚々たるスペースムービーに影響を与えたと言われるいにしえのチェコ共産SF。あーなんとなくわかるような分からんような。というかそもそも『2001年宇宙の旅』を観たのがだいぶ前だしあんまり真剣に観ていないん…

抑圧者としての自分がじりじりと炙り出されつつも、物語の奔流に圧倒される読書体験/『パチンコ』

なんという没入感……あっという間に読んでしまいました。なんというか、もっと日本社会への批判的な目線が入っても当たり前なのだが、ものすごく慎重に日本人や日本社会を責めず悪者にせずただありのままに日本の醜い部分を含めて彼らの生きていた空間を昭和…

コミカルでライトでアクセント的に脇役が死ぬよね/『ムーンライズ・キングダム』

ウェス映画、脇役の死にようがめちゃくちゃコミカルなことが気になるんだよね。今回は犬のスヌーピーでした。(グランド・ブタペスト・ホテルの脱獄のシーンで地下ポーカーしてた奴らをババーッ!と殺すところで「は?」と思ったのを覚えてます。)話の展開上…

ずっとボギーの良さはわからないまま/『3つ数えろ』

『3つ数えろ』を観た。ハンフリー・ボガートとローレン・バッコール夫妻が主演のフィリップ・マーロウものなのだがとにかく話の筋がわかりづらい。ガイガーとリーガンが全然画面に出てこないから登場人物が何の話してるのか全くわからないし…。最近の異様に…

有機的な断片たち/『盆栽/木々の私生活』

最近本にも映画にも集中力が続かない上、平日は少ししか読者に宛てられない労働者なのでこういった断片的で語りが行ったり来たりする物語に対してこっちの読み方が悪かった。嗚呼労働者の悲哀よ。最近珍しく集中できたのは「パチンコ」で、本当にどうにもな…

あの子は嫌いよ。あなたを苦しめるから/『イノセント』

ヴィスコンティの遺作『イノセント』を観た。コスチュームプレイここに極まれりすぎて若干胸焼けしました。もう四捨五入したらアラサーだから霜降りの脂乗ってる肉とか沢山食べられないの……。『山猫』は長いけどシチリアの青い空も出てくるしもうちょっとカ…

誰?そのマッチョ/『時計仕掛けのオレンジ』

あの、冒頭から不良たちのファールカップが気になって気になって、君たちそんなに金的への攻撃を日常的にやってるの?だから防御が必要なの?と思いました。これ、有名すぎるのとそもそもの作品自体が妙な話なのでちゃんと考察する気が全く起きないですね。…

ユングとフロイトの破局/『危険なメソッド』

キーラナイトレイの迫真の錯乱の演技。演出でうまく「これは恋じゃなくて転移なんですよ」感が出てると思います。フロイトがなんでもリビドーに結びつけちゃうのは有名で今となっては眉唾扱いされてるものと思ってたけど、これ見たらそれはユングもじゃない…

恋する人たちには、ドナウは青く見えるのさ/『チップス先生さようなら』

久しぶりにしょうもなくない学園ものを観たわ…。なんと、主演のロバート・ドーナットは当時35歳!見事におじいちゃん先生を演じている。青年期の俳優は別の人で、ヒゲ生やしだしてからは年相応の俳優が演じてるものと思ってたけど、実は老け演技がめちゃくち…

ただのウィアード・アリス?/『アリス・スウィート・アリス』

血糊が明るい赤すぎて全然怖くないですね。サスペリア2っぽい。あと恐怖で叫んでる演技が大げさすぎて時代を感じるしこれまた怖くないんですよね。(笑)叔母さんが襲われるシーンとか物凄く叫んでて「何?」と思いました。「70年代スラッシャーの隠れた名作」…

コミュニティもアイデンティティも”プライド”もない、ただ男を愛した男のすがた/『ブロークバック・マウンテン』

『ブロークバック・マウンテン』を観た。ヒースレジャー、滑舌悪いけどエモいですね。ある夏、二人の若者ジャックとイニスが羊の放牧のためのカウボーイ(季節労働者)として雇われる。世間から隔絶された山の中で毎日過ごすうちに、二人は身体を重ねてしまう…

少なくとも総てではないよね/『メアリーの総て』

メアリー・シェリーの伝記映画『メアリーの総て』を観た。結構ホットな俳優を集めていてメアリーにエル・ファニング、メアリーの継母にはダウントンアビーでアンナを演じたジョアンフロガット、スコットランドの友人にはゲームオブスローンズのアリアのメイ…

派手派手スパイ映画/『コードネームU.N.C.L.E.』

服がいいですね〜。アリシアのキッチュなファッションがとても可愛いらしい。あのプラスチックのイヤリングどこで見つけたの?衣装の人!!デビッキ様は化粧が激しすぎてあんまりデビッキ様っぽくなかったかな……ナイト・マネジャーぐらいの感じが好きです。…

ティモシーシャラメがビョルンみたいにゲイアイコンになっちゃわないかだけが心配/『CALL ME BY YOUR NAME』

グァダニーノ『CALL ME BY YOUR NAME』を観た。いやあの、エリオがオリヴァーのこと好きすぎて性欲を持て余して悶々としてた時にセックスしちゃうフランス人の女の子が可哀想すぎていたたまれないしなにが友達の握手なんだよ…と思いました。まあ全体的にはボ…

美神マレーネ/『上海特急』

『上海特急』を観た。マレーネ・ディートリッヒの輝かんばかりの美しさ。ストーリーは割としょうもないですが、そこはもうアステアのダンスを見せるための映画と同じで、マレーネの美貌が見られれば複雑なストーリー展開などいらなくて陳腐な方がむしろいい…

あんまりファムファタールさがわからなかった/『イヴォンヌの香り』

パトリス・ルコント『イヴォンヌの香り』を観た。『仕立屋の恋』や『髪結いの亭主』は好きだったけど、これはルコント作品の中でも全然ピンと来なかったし「ファム・ファタールと出会った夏」と言われても「う〜〜ん…」という感じだった。アメリカ行きの汽車…

サミュエル・L・ジャクソンだったのか、その重々しい語りは/『私はあなたのニグロではない』

ボールドウィンの未完成原稿を基にした『私はあなたのニグロではない』を観た。ついこの間までトランプが大統領だっただからなおさら際立つけど、アメリカはもともと根底にものすごくシステマチックな差別構造を持っていて、個々人(特に白人)のうちにも、ス…

歌が下手なのが致命的/『チョコレートドーナツ』

世間の評価が高いらしいので期待して観たけどあんまりこのテンションに乗りきれなくて全体的に「イマイチ……」という印象だった。まあハードル上げすぎてたのと、「感動作」一般と相性が悪いので……ゲイへの偏見をなくそうというメッセージはそれなりにちゃん…

気持ちはわかるけどそのテープは捨てちゃうなよ!!/『ガッジョ・ディーロ』

ずっと観たかった。歌と踊りこそ人生。フランス人の若者ステファンは、父が愛聴した伝説のジプシー歌手ノラ・ルカに会うためにはるばるルーマニアにやってくる。言葉も通じない中、やたらと感情表現が大げさ(とてもジプシーっぽい)な村の老人イシドールに気…

叶わなかったifの物語/『つぐない』

シアーシャ・ローナンのエキセントリックピュアガール感、既にこの頃から出来上がってたんだな…画が綺麗な映画ってそれだけで良いですよね…。あの英国の植込みと芝生。セシリアとロビーは実際は逮捕の時からもう二度と会えなかった。ブライオニーがふたりに…

波に乗り遅れたけど『パチンコ』面白すぎる

ミン・ジン・リー『パチンコ』(上)を読んだ。面白すぎる……この没入感は『芙蓉千里』以来かも。大事なところ(イサクの死とか)を具体的に描き切らないところとか本当にストーリーテリングが巧み。一章ごとのラストフレーズもめちゃくちゃ余韻があってとてもよ…

偽預言者に気をつけよ/『狩人の夜』

チャールズ・ロートン監督『狩人の夜』を観た。幼い兄妹、ジョンとパールの父ベンは生活苦から強盗殺人を犯し、死刑に処されるが、逮捕される前に子供達に盗んだ金を託していた。そこへベンと同じ房に入れられていた自称伝道師、ハリー・パウエルがやってく…

やっぱり詩人/『フラーニャと私』

ノルシュテイン『フラーニャと私』を読んだ。制作途上や、構想のみで撮影しなかったシーンなどの膨大なスケッチやエスキースをノルシュテインの希望の順番で編集したらしい。特に製作中で未完の『外套』の絵がたくさん観られて良い。妻のフラーニャが美術監…