墓場よりお送りいたします

ブン学、オン楽、映画のはなしなど

2021-01-01から1年間の記事一覧

誰?そのマッチョ/『時計仕掛けのオレンジ』

あの、冒頭から不良たちのファールカップが気になって気になって、君たちそんなに金的への攻撃を日常的にやってるの?だから防御が必要なの?と思いました。これ、有名すぎるのとそもそもの作品自体が妙な話なのでちゃんと考察する気が全く起きないですね。…

ユングとフロイトの破局/『危険なメソッド』

キーラナイトレイの迫真の錯乱の演技。演出でうまく「これは恋じゃなくて転移なんですよ」感が出てると思います。フロイトがなんでもリビドーに結びつけちゃうのは有名で今となっては眉唾扱いされてるものと思ってたけど、これ見たらそれはユングもじゃない…

恋する人たちには、ドナウは青く見えるのさ/『チップス先生さようなら』

久しぶりにしょうもなくない学園ものを観たわ…。なんと、主演のロバート・ドーナットは当時35歳!見事におじいちゃん先生を演じている。青年期の俳優は別の人で、ヒゲ生やしだしてからは年相応の俳優が演じてるものと思ってたけど、実は老け演技がめちゃくち…

ただのウィアード・アリス?/『アリス・スウィート・アリス』

血糊が明るい赤すぎて全然怖くないですね。サスペリア2っぽい。あと恐怖で叫んでる演技が大げさすぎて時代を感じるしこれまた怖くないんですよね。(笑)叔母さんが襲われるシーンとか物凄く叫んでて「何?」と思いました。「70年代スラッシャーの隠れた名作」…

コミュニティもアイデンティティも”プライド”もない、ただ男を愛した男のすがた/『ブロークバック・マウンテン』

『ブロークバック・マウンテン』を観た。ヒースレジャー、滑舌悪いけどエモいですね。ある夏、二人の若者ジャックとイニスが羊の放牧のためのカウボーイ(季節労働者)として雇われる。世間から隔絶された山の中で毎日過ごすうちに、二人は身体を重ねてしまう…

少なくとも総てではないよね/『メアリーの総て』

メアリー・シェリーの伝記映画『メアリーの総て』を観た。結構ホットな俳優を集めていてメアリーにエル・ファニング、メアリーの継母にはダウントンアビーでアンナを演じたジョアンフロガット、スコットランドの友人にはゲームオブスローンズのアリアのメイ…

派手派手スパイ映画/『コードネームU.N.C.L.E.』

服がいいですね〜。アリシアのキッチュなファッションがとても可愛いらしい。あのプラスチックのイヤリングどこで見つけたの?衣装の人!!デビッキ様は化粧が激しすぎてあんまりデビッキ様っぽくなかったかな……ナイト・マネジャーぐらいの感じが好きです。…

ティモシーシャラメがビョルンみたいにゲイアイコンになっちゃわないかだけが心配/『CALL ME BY YOUR NAME』

グァダニーノ『CALL ME BY YOUR NAME』を観た。いやあの、エリオがオリヴァーのこと好きすぎて性欲を持て余して悶々としてた時にセックスしちゃうフランス人の女の子が可哀想すぎていたたまれないしなにが友達の握手なんだよ…と思いました。まあ全体的にはボ…

美神マレーネ/『上海特急』

『上海特急』を観た。マレーネ・ディートリッヒの輝かんばかりの美しさ。ストーリーは割としょうもないですが、そこはもうアステアのダンスを見せるための映画と同じで、マレーネの美貌が見られれば複雑なストーリー展開などいらなくて陳腐な方がむしろいい…

あんまりファムファタールさがわからなかった/『イヴォンヌの香り』

パトリス・ルコント『イヴォンヌの香り』を観た。『仕立屋の恋』や『髪結いの亭主』は好きだったけど、これはルコント作品の中でも全然ピンと来なかったし「ファム・ファタールと出会った夏」と言われても「う〜〜ん…」という感じだった。アメリカ行きの汽車…

サミュエル・L・ジャクソンだったのか、その重々しい語りは/『私はあなたのニグロではない』

ボールドウィンの未完成原稿を基にした『私はあなたのニグロではない』を観た。ついこの間までトランプが大統領だっただからなおさら際立つけど、アメリカはもともと根底にものすごくシステマチックな差別構造を持っていて、個々人(特に白人)のうちにも、ス…

歌が下手なのが致命的/『チョコレートドーナツ』

世間の評価が高いらしいので期待して観たけどあんまりこのテンションに乗りきれなくて全体的に「イマイチ……」という印象だった。まあハードル上げすぎてたのと、「感動作」一般と相性が悪いので……ゲイへの偏見をなくそうというメッセージはそれなりにちゃん…

気持ちはわかるけどそのテープは捨てちゃうなよ!!/『ガッジョ・ディーロ』

ずっと観たかった。歌と踊りこそ人生。フランス人の若者ステファンは、父が愛聴した伝説のジプシー歌手ノラ・ルカに会うためにはるばるルーマニアにやってくる。言葉も通じない中、やたらと感情表現が大げさ(とてもジプシーっぽい)な村の老人イシドールに気…

叶わなかったifの物語/『つぐない』

シアーシャ・ローナンのエキセントリックピュアガール感、既にこの頃から出来上がってたんだな…画が綺麗な映画ってそれだけで良いですよね…。あの英国の植込みと芝生。セシリアとロビーは実際は逮捕の時からもう二度と会えなかった。ブライオニーがふたりに…

波に乗り遅れたけど『パチンコ』面白すぎる

ミン・ジン・リー『パチンコ』(上)を読んだ。面白すぎる……この没入感は『芙蓉千里』以来かも。大事なところ(イサクの死とか)を具体的に描き切らないところとか本当にストーリーテリングが巧み。一章ごとのラストフレーズもめちゃくちゃ余韻があってとてもよ…

偽預言者に気をつけよ/『狩人の夜』

チャールズ・ロートン監督『狩人の夜』を観た。幼い兄妹、ジョンとパールの父ベンは生活苦から強盗殺人を犯し、死刑に処されるが、逮捕される前に子供達に盗んだ金を託していた。そこへベンと同じ房に入れられていた自称伝道師、ハリー・パウエルがやってく…

やっぱり詩人/『フラーニャと私』

ノルシュテイン『フラーニャと私』を読んだ。制作途上や、構想のみで撮影しなかったシーンなどの膨大なスケッチやエスキースをノルシュテインの希望の順番で編集したらしい。特に製作中で未完の『外套』の絵がたくさん観られて良い。妻のフラーニャが美術監…

日本語が雑い/『ジョン・ウィック:パラベラム』

とにかく日本っぽさが雑いことが鼻についた3作目。全体的にも、やっぱり続きものは1作目を超えられないの法則発動ですね。「イラッシャイマセー」の白々しさ…ゼロの手下なんて日本語喋ってすらないし…あとカメラワークのゲームっぽさが増したなーと思いまし…

もっとバッドガールかと思ってたよ/『ギルダ』

チャールズ・ヴィダー監督『ギルダ』(1946)を観た。筋がいまいちわかりにくくて、ギルダとジョニーが以前恋愛関係にあってひどい別れ方をしたのは示唆されてるんだけど、具体的に何があったのかいつか判明するのかなーと思って待っていたら特に明かされずに…

急にテンポ早くなって終わるMV的読後感/『かか』

宇佐美りん『かか』を読んだ。独特の「かか語」で綴られる19歳の、みずみずしいというにはあまりに生っぽい母親への感情。最後にたたみかける走馬灯のような「結局こうなった」のターンは、最後に急にテンポが早くなってカットがどんどん切り替わって音がジ…

まさにアニメで綴る詩/『アニメの詩人 ノルシュテイン』

児島宏子『アニメの詩人 ノルシュテイン』を読んだ。この本を手に取るのはすでにノルシュテイン・ファンの方だと思いますが、「ノルシュテイン短編集」を観ていないと本書を読んでも意味がわからないと思うので、ノルシュテイン作品を未見の方は先にアニメの…

どうせ何もかも偽物だったんだから/『俺の歯の話』

バレリア・ルイセリ著『俺の歯の話』を読んだ。あらすじをダラダラ書いてもこの本の良さは伝わらないし、訳者あとがきでマツケン先生がかなりこの本の理解の助けになることを書いてくれているので私から言うことはない。とにかく冒頭が最高なので引用したい…

エレクトロ・ノスタルジック・ドリームズ/Lorde “Ribs”

大学2年生からLordeをずっと聴いている。Lordeは若くしてデビューしたわりに寡作で2021年現在アルバムは2枚しかないのだが、とにかくファーストアルバムのPure Heroine をめちゃくちゃ聴いた。ファーストトラックの“Tennis Court”もとにかく良い曲だし、Lord…

世界終末つらつらエッセイ/『ウィトゲンシュタインの愛人』

『ウィトゲンシュタインの愛人』を読んだ(読み終わらなかった)。とにかく装丁が素晴らしい。世界が終わろうとしていて、一人だけ海辺に生きているらしい女のつらつらした日記なのだが、あらゆることに対して認識が曖昧になっていて、あれはそうだったとかい…

多文化共生はただの平和な夢ではない/『判決、ふたつの希望』

ジアド・ドゥエイリ監督『判決、ふたつの希望』を観た。原題は”The Insult”(侮辱)。原題の方がわかりやすいし重々しいし変えなくていいよ。よくあることだけど邦題をつけるときに変に捻ったがゆえに本質を外してしまっていて残念ですね。そして、「ふたつの…

登場人物全員バカ/『セックス発電』

言いたいことはタイトルの通りである。少し前になんだか疲れて元気を出そうと思い、「おバカエロ映画でも観るか…」という時期があった。(そんな発想になる奴あんまりいないと思うけど。ただし、ここで言うおバカエロ映画とはあくまでいわゆるAV然としたAVで…

白黒の熱帯の冷たさ/「立ち去った女」

ラヴ・ディアス「立ち去った女」を観た。どんなストーリーであってもエッジの立った白黒映画の怜悧な美しさをわたしは愛している。あらすじ中年の女ホラシアは30年間無実の罪で投獄されていたが、ある日刑務所内の親友ペトラが「金のためにホラシアの元恋人…

おおアンニーナ/La Traviata (2014 Glyndebourne)

私がはじめてこの「椿姫」2014グラインドボーン版を観たのはBS放送で、英国上流階級の社交イベントの知識などあろうはずもない日本の一般視聴者向けに、グラインドボーン音楽祭の紹介コーナーがあった。羊が放牧されている広い牧草地になぜかオペラハウスが…